蜜蜂と遠雷|恩田陸|感想・あらすじー文字から音が聴こえる、天才ピアニストたちの2週間【直木賞・本屋大賞W受賞】
ピアノコンクールを、まるごと一冊にした小説です。📖
舞台は、3年ごとに開かれる国際ピアノコンクール。予選から本選までの2週間を、4人の若きピアニストを軸に描く群像劇です。
私はクラシックにまったく詳しくありませんが、それでもハラハラワクワクしながら一気に読めました。
天才しか立てない舞台の過酷さと、文字なのに音が聴こえてくる演奏描写。
史上初の直木賞・本屋大賞W受賞は、伊達じゃなかったです。
知らない世界に飛び込んでみたい人に、ぜひ。🐤📖
作品情報
| 項目 | 内容 |
| 作品名 | 蜜蜂と遠雷(上・下) |
| 著者名 | 恩田陸 |
| 刊行年 | 2016年(幻冬舎) |
| ジャンル | 青春群像小説(音楽・ピアノコンクール) |
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一行本棚|作品メーター
※主観で書いています。大きいほど濃厚な読書体験となります。
- 長さ【4】 短い★★★★☆長い
- 読みやすさ【2】 単純★★☆☆☆複雑
- 重さ【2】 軽い★★☆☆☆重い
- 余韻【4】 アッサリ★★★★☆コッテリ
おすすめのタイミング
何か新しい世界に触れたいとき。まとまった休みに、一気読みの快感を味わいたいとき。音楽をやっていた人はもちろん、やっていない人にこそ。
舞台は国際ピアノコンクール。クラシックを知らなくても大丈夫?
舞台は、3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のコンクールで優勝する」と言われる、注目の大会です。
主役は、対照的な4人のピアニスト。
自宅にピアノを持たない謎の少年。母の死からピアノを弾けなくなった、かつての天才少女。名門ジュリアードの優勝候補。そして、楽器店で働きながら年齢制限ギリギリの挑戦に臨むサラリーマン。
1次予選から本選まで、演奏と人生が交互に描かれていきます。
私自身、クラシックの知識はほぼゼロでした。それでも大丈夫、むしろ知らない世界だからこそ、ページをめくる手が止まりませんでした。
ここから本格レビュー(ネタバレあり)
⚠️ 以下はネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
物語は、パリでのオーディション会場から始まります。
凡庸な演奏に飽きていた審査員の前に、泥だらけの手をした16歳の少年が現れます。風間塵。経歴はほぼ白紙。ただ、ある人物からの推薦状だけが添えられていました。それは亡き伝説的ピアニスト、ホフマンからだったのです。
ホフマンが遺した推薦状には、彼は「ギフト」か「災厄」か、と挑発的な言葉が記されていました。
塵の破壊的な演奏は賛否を巻き起こし、審査員を二分しますが、議論の末、彼は本選の地・日本へ。
そこには、母の死以来ステージから逃げていた栄伝亜夜、幼い頃に亜夜とピアノで出会ったマサル、最後の挑戦に懸ける高島明石が集まっていました。
2週間のコンクールが、始まります。
主な登場人物
| 人物 | どんな人か |
| 風間塵 | 16歳。養蜂家の父と各地を転々とし、自宅にピアノを持たない。亡き巨匠ホフマンが遺した「劇薬」 |
| 栄伝亜夜 | 20歳。かつての天才少女。母の突然の死以来、ステージで弾けなくなった |
| マサル・C・レヴィ=アナトール | 19歳。名門ジュリアードの優勝候補。幼い頃、日本で亜夜に連れられてピアノと出会った |
| 高島明石 | 28歳。音大出身だが今は楽器店勤務。年齢制限ギリギリ、妻子を持つ身での最後の挑戦 |
天才って、こんなに埋もれるのか
まず驚かされたのは、この世界の過酷さです。
登場するのは、みんな「天才」と呼ばれてきた人たちです。地元で神童、コンクールを総なめ。そういう人たちが世界中から集まってきて——その大半が、予選で埋もれていきます。
上澄みの、さらに上澄みしか残れない。
しかも残るような天才ですら、当たり前のように、ものすごい量の努力を積んでいる。才能があれば安泰、という世界ではまったくありませんでした。
もっと言えば、これだけ弾ける人がひしめいていても、音楽で食べていける人はほんの一握り。そんな生々しい現実まで、この本はさらりと描いてきます。
華やかなステージの裏側が、こんなにも険しいとは。知らない世界を覗く面白さに、まずここで掴まれました。
そして、文字から音が聴こえてくる
でも、この本の真骨頂はここからです。
演奏シーンの描写が、とんでもないのです。
私はクラシックの曲をほとんど知りません。それなのに、読んでいると音がありありと浮かんでくる。会場の空気が張り詰めるのも、聴衆がざわめくのも、ぜんぶ文字なのに、聴こえる。
そしてこの描写、最初から全開かと思いきや、コンクールが佳境に向かうにつれて、さらに熱を上げていきます。
極めつけが、塵と亜夜のリレーです。
塵が弾いて、「音楽ってこういうものでしょ」という会場の認識をぶっ壊す。その直後に亜夜が、壊された地平の上で——塵と同じ軸ではなく、別の軸で——聴衆の心を掴んでいくのです。
塵は、純粋に自由奔放。亜夜は、自由でありながらピアニストとしての確かな土台も併せ持つ。この二人を、この順番で。
ワクワクして、鳥肌が立って、作者の腕にただただ驚愕するばかりです。
才能だけの物語ではなかった
一方でこの本には、もう一つの顔があります。
高島明石。妻子と仕事を抱えながら、年齢制限ギリギリでコンクールに挑むサラリーマンです。
彼は、二次予選で敗れます。
でも、彼の「春と修羅」は特別でした。
このコンクールのために書き下ろされた新曲「春と修羅」。モチーフは宮沢賢治です。指導教官もいない、仲間との情報交換もできない明石は、たった一人で曲と向き合うしかありません。
そこで彼は、通勤時間に賢治を読み直し、ほぼ日帰りの強行軍で岩手まで行き、作品の舞台を自分の目で見て回ります。
そして即興部分に選んだのが、「永訣の朝」の一節でした。
あめゆじゅとてちてけんじゃ——死にゆく妹が、雪を取ってきてと兄に頼んだ言葉。痛切なのに、どこか音楽的なこの台詞を、彼はメロディに乗せるのです。
学生ではないハンデを、年長者の解釈力に変える。この泥臭い作り込みが実を結び、明石の演奏は「春と修羅」の最優秀に贈られる菱沼賞に選ばれます。
敗れた側にも、ちゃんと物語がある。
生活を抱えたまま、それでも舞台に立って、みんなの前で演奏する。天才たちの華やかな戦いの脇で、この姿が静かに効いてきます。
知らない世界ほど、面白い
過酷な世界と、音が聴こえる描写。それを支えているのは、キャラクターの魅力でした。
4人の誰もが、誰かを蹴落とすためではなく、音楽が好きで好きでたまらなくて弾いている。だから読んでいて、ずっと気持ちがいいのです。
クラシックがわからなくても、まったく問題ありませんでした。
知らない世界だからこそ味わえるハラハラとワクワクが詰まった、最高の読書体験でした。📘🐤
同じく「大会」を舞台にした熱い群像劇。↓
知らない世界に夢中になれる一冊ということで、こちらも是非。↓



